

この本は、ジョンズホプキンス大学精神医学部門における考え方の基本となっている『マクヒュー/スラヴニー 現代精神医学 The Perspectives of Psychiatry』(みすず書房 2019年)を、実際の臨床現場に即した形でまとめた “Systematic Psychiatric Evaluation: A Step-by-Step Guide to Applying The Perspectives of Psychiatry”の翻訳です。
精神神経科臨床においては、The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Illnesses (DSM)などが、現在の診断基準体系の骨格を作っています。しかし、これらは画一的なマニュアルであり、臨床の現場を表層的に硬直化したものにしてしまうリスクがあります。これに対し、多角的な視点を活用し、それぞれの視点の力点の置き方を患者個人レベルで柔軟に対応させることで,この問題点を克服しようとするのが“Perspectives”の考え方であり目的です。本書における具体的症例を見ることで、理論とその実践応用が、わかりやすく理解していただけるものと信じます。日本語版で追加された「読者への手引き」「(各症例の)Point」は、段階的にステップを踏む精神科的評価の理解の助けとなることでしょう。
精神神経症状は、全ての医療診療科の疾患で認められるものです。精神神経症状に対応すべき時に、画一的なマニュアルに限界を感じる医療者は多いと思います。この本は、こうした全医療者に勧めたい内容となっています。
現在の医療は、プレシジョン・メディスンとして、個人を大切にするものになってきています。プレシジョン・メディスンとしての精神神経症状への対応、その実践に、きっとこの本は大いにお役に立てるものでしょう。
『システマティック臨床精神医学 4つの多元的観点による治療体系化』
澤 明 監修 成田 瑞 監訳 中外医学社 2024年