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明日12月20日のシンポジウムに向けて

明日12月20日に日本医療政策機構(HGPI)と共催で「デジタルテクノロジー」をどのようにメンタルヘルスの分野で活用していくか、というシンポジウムをすることはすでにお伝えしたところです。京都大学の櫻井武先生のこの分野に対する情熱が、栗田駿一郎さんに代表されるHGPI内のメンタルヘルスチームのコミットメントと共鳴しあった結果です。HGPIは、医療にデジタルテクノロジーがさらに有効利用されていくことが医療政策の観点で重要であると考え、それを彼らの活動の課題に入れておられました。事実、政官界には医療DXというキーワードがありますし、民間から次々と現れるこのテクノロジーを生かした新しいアイディアとプロダクトを、どのように活用、認可していくかということも重要な課題でしょう。医療現場、医学研究でもビッグデータの活用はホットトピックです。


一方で、私はこれまでずっと「ビッグデータ」にも「デジタルテクノロジー」にもそれなりの距離を置いてきました。1つ目は医療者として、患者さんの声に耳を傾ける姿勢に対するノイズになる可能性があるとの警戒からです。2つ目は医学研究者として、研究が病態機構の発見、因果関係の証明という医学、生物学の根幹に対して、表層的な記述情報だけを増やすリスクになるとの認識からです。


これらの問題点は、メンタルヘルス、精神医学において、より顕著に現れる危険があると思っています。精神科医療では、他の医学、医療分野に比べて客観的な病態指標が圧倒的に欠落しています。それゆえ臨床症状を医師たちがどのように見立てるかで診断基準が作られています。それゆえ、妥当性(validity)には目をつぶったうえで、信頼性(reliability)の担保を目指すということになります。このことについての詳細は、我々のグループからの最近の出版物(精神科治療学の中の1章)を見ていただければと思います。デジタルテクノロジーは情報の増幅に優れている一方で、その情報の妥当性が少しでも疑わしい場合には、間違いの増幅が一気に社会に広まることになります。これらを踏まえて、メンタルヘルスにデジタルテクノロジーを活用する上で、「エビデンス」を考えることは大切だと思われます。「エビデンス」の妥当性、それに基づいたデジタルテクノロジーの活用ということは、がん、代謝疾患など多くの疾患で深く検討されていますので、メンタルヘルスでデジタルテクノロジーを扱う時にも、こうした他の疾患での発展から学ぶ姿勢が必要でしょう。


シンポジウムの午前の部(セッション1)では、この「エビデンス」の問題を主に扱います。昼休みの後は、政官界から何名か来ていただきそれぞれのお立場から現在の医療DXへの取り組みなどをご紹介してもらったうえで、このテクノロジーが民間やアカデミアから実際的なメリットに向けていかにアプローチしていけるのかということを話していきます(セッション2)。セッション3はそれらを総括した話になるでしょう。シンポジウムが終わったら、またそれを踏まえて、幾つかのメッセージを出せればと思います。特に、メンタルヘルス、精神医学においては、私が教授挨拶で書いたところの実証的論理(empirical)での「エビデンス」のみならず、いかに共感的論理(empathic)も大事にできるかということです。デジタルテクノロジーの発展との関わりは?これもシンポジウム当日に考えていくべきことでしょうし、後日のメッセージの中でまた議論させてください。


ところで、今日の写真は東京の上空からの風景です。パンデミックになり日本に仕事で来ることは非常に困難になりましたが、東京オリンピック前後にて羽田に着陸するために新しいルートができたようですね。かなり急角度で降下するルートに感じますが、世界でも有数のダイナミックな風景が楽しめます。これは何かの機会で1、2年前に日本を訪れたフライトで撮った写真です。


それでは明日オンラインにてお目にかかりましょう!(申込みはこちら



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